◇11年の歳月で変わったもの、変わらなかったもの

 天気予報で「今日の降水確率は60パーセントです」と聞いただけで、憂鬱になる私でした。 

 いつの頃からか、「雨」がきらいになっていました。 

 昔、私の目が見えなくなったとき、自信をつけるため、日本全国47都道府県を一人旅しました。  

40県ほど回った頃、ふと気付きました。 

 「あれ、ここまで一度も傘を出したことがないぞ。」 このまま雨に当たらなければ、パーフェクトだ。 

 そんなことを思った途端、2015年4月、岩手で雨に遭いました。 

 地下道から階段を上がり、地上に出ると、雨が降っていました。 

 「あー、ついに雨か。」 そう思った瞬間、肩の力が抜けました。 

 リュックから傘を出そうとしたのですが、どこに入れたのかわからず、5分ほど探してようやく見つかりました。 

 「あったー。」 

 そして、さあ行こうと思ったとき、女性の声が聞こえてきました。 

 れいこさんという女性でした。 「大丈夫ですか?」 どうやら、さっきから心配して様子を見てくださっていたようです。 

 沈んでいた気持ちが、ぽっと温かくなりました。 

 それがきっかけで、北上川と岩手山が一望できる、以前から行きたかった「開運橋」へ連れて行っていただきました。 その後も、石割桜に案内していただくなど、感激の連続で、生涯忘れることのできない思い出ができました。 

 次に雨に当たったとき、考えました。 

 私はこれまで、雨の何がきらいだったのだろう。 濡れること。 傘をさすこと。 無意識のうちに、「雨は嫌い」と決めつけていたところがあったようです。 

 あの日以来、雨の日になると、よく思うことがあります。 

 「今日も、何か素敵な出会いがあるかも♪」 

 この世で、私のきらいなものが一つ消えました。 

 これは、私にとってすごいことです。 

 空に向かって鼻歌も出ます。 


 先日、岩手県の障害者センターから講演の依頼をいただき、再び岩手を訪れました。 

 岩手では、れいこさんが迎えてくださいました。 変わらない優しい声です。 

 握手した手が、しばらく離せませんでした。 

 あの日の「開運橋」にも行きました。 

 あの日に見た、見えない景色を思い浮かべました。 

 岩手山も、北上川も、何ひとつ変わることなく、そこにあり、流れ続けているのでしょう。 

 あれから11年。 私を取り巻く環境は、大きく変わりました。 

 あの頃は、闇に立ち向かうために、必死にもがいていました。 

 「よくここまで来られたなぁ……。」 

 そう思うと、熱いものが込み上げてきました。 本当に、いろいろなことが変わりました。 

 でも、あのときのれいこさんへの感謝だけは、まったく変わっていません。 

 頭で覚えた記憶は少しずつ薄れていきます。 

 でも、心で受け止めたご恩と感謝の気持ちは、決して色あせない。 

 あのときのぬくもりも、そのまま心に残っています。 

 11年という歳月は、たくさんのものを変えました。 

でも、あの日の雨が運んできてくれた優しさと感謝だけは、今も少しも変わっていません。 

あの日の雨に、改めて感謝します。

11年前に出会った地下道で再びれいこさんと♡

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